「あなたは、心理試験の危険なことをよく知っていて、あらかじめ準備していたのでしょう。」

 

 蕗屋は話手の目をじっと見詰めていた。どういう訳か、そらすことが出来ないのだ。

 そして、鼻から口の辺にかけて筋肉が硬直して、笑うことも、泣くことも、驚くことも、一切の表情が不可能になった様な気がした。

 無論口は利けなかった。

 もし無理に口を利こうとすれば、それは直ちに恐怖の叫声になったに相違ない。

 「ところで、笠森さんに伺いますが、問題の六歌仙の屏風は、いつあの老婆の家に持込まれたのですかしら」明智はとぼけた顔をして、判事に聞いた。

 「犯罪事件の前日ですよ。つまり先月の四日です」

 「エ、前日ですって、それは本当ですか。妙じゃありませんか、今蕗屋君は、事件の前々日即ち三日に、それをあの部屋で見たと、ハッキリいっているじゃありませんか。どうも不合理ですね。あなた方のどちらかが間違っていないとしたら」

 これが明智の最初から計画した罠だった。彼は事件の二日前には、老婆の家に屏風のなかったことを、判事から聞いて知っていたのだ。

 「どうも困ったことになりましたね」明智はさも困ったような声音でいった

 「これはもう取返しのつかぬ大失策ですよ。なぜあなたは見もしないものを見たなどというのです。あなたは事件の二日前から一度もあの家へ行っていない筈じゃありませんか。」

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