笠森判事の心理試験がいかように行われたか。

 それに対して、神経家の斎藤がどんな反応を示したか。

 蕗屋が、いかに落ちつきはらって試験に応じたか。

 ここにそれらの管々しい叙述を並べ立てることを避けて、直ちにその結果に話を進めることにする。

​*

 それは心理試験が行われた翌日のことである。

 笠森判事が、自宅の書斎で、試験の結果を書きとめた書類を前にして、小首を傾けている所へ、明智小五郎の名刺が通じられた。

「D坂の殺人事件」を読んだ人は、この明智小五郎がどんな男だかということを、幾分ご存じであろう。

 このお話は「D坂の殺人事件」から数年後のことで、彼ももう昔の書生ではなくなっていた。

 「僕はこの連想試験の結果からみて蕗屋が犯人だと思うのですよ。しかしまだ確実にそうだとはいえませんけれど、あの男はもう帰宅したでしょうね。どうでしょう。それとなく彼をここへ呼ぶ訳には行きませんかしら、そうすれば、僕はきっと真相をつき止めてお目にかけますがね」

 「なんですって。それには何か確かな証拠でもあるのですか」

 判事が少なからず驚いて尋ねた。

 明智は別に得意らしい色もなく、詳しく彼の考えを述べた。そして、それが判事をすっかり感心させてしまった。

 明智の希望が容れられて、蕗屋の下宿へ使いが走った。

 「ご友人の斎藤氏はいよいよ有罪と決した。それについてお話したいこともあるから、私の私宅までご足労を煩したい」

 これが呼出しの口上だった。蕗屋はちょうど学校から帰ったところで、それを聞くと早速やって来た。

 さすがの彼もこの吉報には少なからず興奮していた。嬉しさの余り、そこに恐ろしい罠のあることを、まるで気付かなかった。

5/9頁

1  2  3  4  5  6  7  8  9  10