そこで、彼は目的の床の間へ行って、松の木の根元を持って、土もろともスッポリと植木鉢から引抜いた。予期した通り、その底には油紙で包んだものが入れてあった。

 彼は落ちつきはらって、その包みを解いて、右のポケットから一つの新しい大型の財布を取出し、紙幣を半分ばかり(十分五千円はあった)その中に入れると、財布を元のポケットに納め、残った紙幣は油紙に包んで前の通りに植木鉢の底へ隠した。無論、これは金を盗んだという証跡をくらます為だ。

​*

 翌日、蕗屋は、下宿の一室で、常と変らぬ安眠から目覚めると、あくびをしながら、枕元に配達されていた新聞を拡げて、社会面を見渡した。

 彼はそこに意外な事実を発見してちょっと驚いた。

 というのは、友人の斎藤が嫌疑者として挙げられたのだ。嫌疑を受けた理由は、彼が身分不相応の大金を所持していたからだと記してある。 

 蕗屋は次のように想像した。

 昨日、斎藤は女中よりも先に家に帰った。そして、当然老婆の死骸を発見した。しかし、直ちに警察に届ける前に、彼はあることを思いついたに相違ない。というのは、例の植木鉢だ。

 彼はそこを調べてみた。ところが、案外にも金の包がちゃんとあったのだ。それを見て斎藤が悪心を起したのは、実に浅はかな考えではあるが無理もないことだ。

 うまく行けば、彼が殺人罪に問われるかも知れたものではない。そうなればしめたものだが、……

 さて読者諸君、探偵小説というものの性質に通暁せらるる諸君は、お話は決してこれ切りで終らぬことを百もご承知であろう。

 いかにもその通りである。実を云えばここまでは、この物語の前提に過ぎないので、作者が是非、諸君に読んでもらいたいと思うのは、これから後なのである。

 つまり、かくも企らんだ蕗屋の犯罪がいかにして発覚したかというそのいきさつについてである。

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